ひとり
『ひとり』
キム・スム著
岡裕美訳
四六判 ソフトカバー
ISBN978-4-380-18007-1 C0097 277頁
定価:本体2000円+税
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韓国で現代文学賞、大山文学賞、李箱文学賞を受賞した作家、キム・スムの長編小説。
歴史の名のもとに破壊され、打ちのめされた、終わることのない日本軍慰安婦の痛み。
その最後の「ひとり」から小説は始まる…… 慰安婦は被害当事者にとってはもちろん、韓国女性の歴史においても最も痛ましく理不尽な、そして恥辱のトラウマだろう。
プリーモ・レーヴィは「トラウマに対する記憶はそれ自体がトラウマ」だと述べた。
1991年8月14日、金學順ハルモニの公の場での証言を皮切りに、被害者の方々の証言は現在まで続いている。
その証言がなければ、私はこの小説を書けなかっただろう。…… (著者のことばより)
<書評・紹介記事>
◉ 日本の読者の皆様へ
私は、ある時期日本の植民地支配を受けていた韓国で生まれ、韓国語で小説を書いています。日本軍「慰安婦」の方々と私に血のつながりはありませんが、広い視野で見れば実のハルモニと同じだという気がします。そしてさらに視野を広げれば、皮膚の色や使う言葉とは関係なく「私たちみんなのハルモニ」だと考えています。
今も地球のどこかで戦争が起こり、少女たちは性暴力に晒されています。その少女たちもまた、広い視野で見るならば「私たちみんなの娘」と言えるでしょう。
私が書きたかったのは、加害者か被害者か、男性か女性かを越えて、暴力的な歴史の渦の中でひとりの人間が引き受けねばならなかった苦痛についてです。
そして、その苦痛を「慈悲の心」という崇高で美しい徳に昇華させた、小さく偉大な魂についてです。
私はこの小説を書きながら、日本軍「慰安婦」の声を小説の中へ導き入れました。その声に込められた切迫した訴えは詩的な響きを生み出し、小説を最後まで進ませてくれました。私の文章として解釈し、再構成した声はゴシック体で表記することで、他の文章と区別しました。
日本軍「慰安婦」の方々が証言した経験と苦痛を自分のものにする過程は、長く苦しいものでした。読者と対面した席で、この小説がすでに出版されているにもかかわらず「未完の、まだ書かれている」小説のようだと告白したのは、そのためでしょう。
この小説を出してから二年余りが過ぎてようやく自分のものになり、私は太平洋戦争当時の日本軍の慰安所を背景にしたもう一つの小説を書くことができました。この小説が生きて戻ってきた日本軍「慰安婦」の物語なら、先ごろ出版した「流れる手紙」(原題)は生きて戻ってきた、または生きて戻れなかった少女たちの物語です。
気の重い読書になるでしょうが、日本の読者の方々が私の小説を読んで多くの点に共感されることを願っています。
他でもない「ひとり」を通じて日本の読者の方々に初めてお会いできることは、私にとってはとても意味があり、ありがたいことです。
この小説に取り入れた日本軍「慰安婦」の経験が並大抵ではないことを、私は知っています。それにもかかわらずこの小説を最後まで日本語にしてくださったことに、特別な感謝をお伝えしたいと思います。
2018年7月 キム・スム
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